サイバーセキュリティの脅威は、外部の攻撃者からのものとは限りません。業務遂行のためにITシステムに正当なアクセス権を持つ従業員やパートナーからのインサイダー脅威もあり得るので、インサイダー脅威についても考慮し、これを軽減する必要があります。彼らは、サイバー攻撃者にとって価値のある、あるいは組織外に公開された場合に評判を落とす可能性のあるデータやシステムにアクセスします。内部関係者は企業の所有する個人情報を漏洩する可能性もあり、リスクを最小限に抑えるには、インサイダー脅威を理解し、対応策を整備することが不可欠です。
インサイダー脅威は、次の3つのソースから発生します。
怠慢な内部関係者 - 誰もが間違いを犯します。これらの間違いの中には、機密データを誤って間違った人に公開してしまうものもあります。一般的な例としては、意図しない受信者にメールを送信したり、フィッシングメールに引っかかったりすることなどがあります。組織に意図的に害を及ぼすために行われるわけではありませんが、損害は悪意のある行動と同じくらい深刻になる可能性があります。これは、データアクセスを制御する厳しい規制や、データの不正使用に対する規制上の罰金があるセクターや地域で事業を行う組織に影響を与えます。
悪意のある内部関係者 - システムやデータに正当なアクセス権を持つ内部関係者の中には、組織に意図的に害を及ぼそうとする者もいます。悪意のある内部関係者は、金銭的利益、復讐、政治的な不満などといった動機で、意図的なデータ盗難やシステムへの妨害行為を行うことがあります。
侵害された内部関係者 - アクセス資格情報を盗まれて攻撃者にログインできるようにさせてしまった場合、犯罪者から恐喝や賄賂によってシステムへのアクセスを強要された場合などがあり、通常、正当なアカウントとパスワードを使用してアクセスするので、検出は困難になります。
Ponemon Institute の2025年のレポートによると、インサイダー脅威インシデントの年間平均コスト総額は、2023年の1,620万ドルから1,740万ドルに増加しています。また、このレポートでは、インサイダーインシデントの数が大幅に増加し、2024年には7,868件に達したことも強調しています。これは、効果的なインサイダー脅威の検出と管理プログラムが極めて重要であることを示すもので、インサイダー脅威の検出と軽減は、すべてのサイバーセキュリティ防御戦略と実装において重要視する必要があります。
リモートワークの増加は、インサイダー攻撃のリスクも高めています。リモートワークによって接続ポイントが飛躍的に増加し、内部からのものを含む高度なサイバー脅威の影響を受けやすくなります。
インサイダー脅威の管理は、主要な指標を正確に特定し、それに対応することにかかっています。これらの指標をリアルタイムで認識することで、壊滅的な被害の可能性を防ぐことができます。インサイダー脅威活動の指標としては、次のようなものがあります。
ユーザーの振る舞いが通常から変化した場合、インサイダー脅威の可能性が考えられます。
異常なアクセスパターン - ユーザーの職務に関連のないファイルやITシステムにアクセスしたり、ITシステムにリモートでログインする時間や場所が変化したりした場合、脅威の活動を示している可能性があります。ログイン試行が複数回失敗することも、アカウント資格情報の侵害の指標となる可能性があります。
大容量のデータ転送 – ユーザーがダウンロードまたはアップロードするデータ量の増加 (特に営業時間外) は、多くの場合、データ流出の試みを示しています。次のような方法がとられます。
権限のエスカレーションや濫用は、インサイダー脅威の危険信号です。適切な権限を持たずに管理機能や機密システムにアクセスしている従業員を調査する必要があります。権限の昇格を必要とするシステムへのアクセスをコントロールするには、特権アクセス管理 (PAM) ソリューションの活用が不可欠です。特権アクセス権限を持つアカウントが通常とは異なる場所から使用されている場合、アカウント情報が共有または侵害されている可能性があります。システムログへのアクセスや変更の試みは悪意のある活動の痕跡を消去するために利用されている可能性があり、注意が必要です。
インサイダー脅威に対抗するには、技術的コントロールと人間的な面からのコントロールが必要ですが、まず、技術的コントロールについて概説します。
NDR ソリューションは、ネットワークトラフィックをリアルタイムで監視、分析し、サイバー脅威を検出します。ネットワークトラフィック分析 (NTA) とユーザー行動分析 (UBA) から発展した NDR ツールは、機械学習や振る舞い分析といった高度な技術を組み込んで不審なアクティビティを特定します。NDR ツールは、ネットワークトラフィックデータに振る舞い分析を適用することで異常なシステム動作を検知し、ユーザーが有効な認証情報でログインした場合でも、インサイダー脅威に関連する異常を検出できます。
NDR ソリューションは、疑わしいネットワーク接続の切断などの保護アクションを自動化し、他のセキュリティツールと統合してインシデント対応を開始できます。このダイナミックなアプローチにより、内部不正やリスクにつながる振る舞いを含む高度な脅威を検出して対応する能力が向上します。
DLP ソリューションは、不正なデータ転送を防止するのに役立ちます。コンテンツ検査やコンテキストセキュリティ分析などの技術を用いて、移動中、保存中、使用中のデータを監視し、データ漏洩を防止します。堅牢な DLP 戦略は、組織が効果的な情報セキュリティを維持するのに役立ちます。
PAM ソリューションは、権限のある担当者のみが機密システムやデータにアクセスできるようにします。PAM で管理されるシステムでは、ユーザーは事前に定義されたワークフロープロセスを使用して管理者にアクセスを申請する必要があります。このワークフローには通常、複数の承認ポイントが含まれており、複数の人がアクセス申請を確認し、承認する必要があります。これは、複数の鍵で開けるロックのようなものです。PAM システムは通常、一時使用のアクセス資格情報を提供し、各セッションは時間制限されています。ログイン中に行われたすべてのアクティビティを記録し、場合によってはアクションのビデオを録画します。これらのログとビデオは、後で分析して確認するためのデータを提供し、必要に応じて変更を簡単に元に戻すことが可能です。
EDR ソリューションは、エンドポイントデバイスのアクティビティに関する詳細な情報を提供します。エンドポイントを狙う脅威がエスカレートしてネットワーク上の他のデバイスやサーバーに感染する前に脅威を検出し、対応できるよう支援します。セキュリティチームは、外部および内部のソースからの悪意のある活動を迅速に特定できます。リアルタイムの行動監視、マルウェアの検出と防止、ファイルとプロセスの監視で、エンドポイントセキュリティの可視性を高めます。ユーザーアクティビティを容易に追跡でき、内部関係者によるインシデント対応機能も提供します。
技術的なソリューションはインサイダー脅威やその他のサイバーセキュリティリスクを検出するための中核ですが、人的要因を無視することはできません。インサイダー脅威への対抗戦略には、非技術的なコントロールも含める必要があります。
インサイダー脅威の潜在的なリスクと影響について従業員を教育することは非常に重要です。定期的かつ綿密なセキュリティ意識向上トレーニングプログラムを実施することで、従業員は同僚の不審な行動を認識し、対応できるようになります。これにより、偶発的または意図的なデータ漏洩が見過ごされる可能性を低減できます。
徹底した身元調査は、潜在的な脅威が内部関係者になる前に特定するのに役立ちます。個人の経歴に関する洞察を提供し、将来悪意のある内部関係者を雇用するリスクを軽減する従業員のスクリーニングは、スタンダードとして行われるべきです。
定期的なセキュリティ監査は、脆弱性を特定し、現在のセキュリティ対策と実践をテストするのに役立ちます。評価によって防御における弱点を特定でき、日常業務や包括的なセキュリティ戦略の更新と改善が可能になります。
厳格なアクセス制御の導入は、機密システムへの不正アクセスを防止する上で重要な要素です。従業員に業務に必要なシステムとデータへのアクセスのみを許可することで、データ盗難や権限濫用の可能性を抑え、情報セキュリティとインサイダー脅威に関連するリスクを軽減できます。
インサイダー脅威への対応においてよくある見落としの一つは、従業員が退職した後すぐにアクセスを取り消さないことです。この不備により、有効な資格情報を保持している元従業員によるデータ侵害の危険性が残ります。退職した従業員のアクセスを削除することは不可欠です。元従業員のアカウントを速やかに無効化しないと、たとえ技術的にはもはや内部関係者でなくても、退職後に潜在的な「インサイダー脅威」が発生する可能性があります。
インサイダー脅威検出のための技術的/非技術的コントロールに加え、ベストプラクティスという面から考慮することでインサイダーリスクに対する保護を向上させることができます。
サイバーセキュリティにプロアクティブな監視と脅威ハンティングを組み込むことで、早期検出機能が強化されます。アラートに受動的に対応するのではなく、プロアクティブに脅威を検索することで、潜在的な内部脅威に先んじることができます。Flowmon プラットフォームの導入は、この実現に役立ちます。
テスト済みのインシデント対応計画があれば、セキュリティチームは検出された脅威に迅速に対応できます。インシデント解決後に分析を行い、根本原因を理解することで、再発防止のための対応計画の策定と更新に役立てることができます。この継続的な改善は、組織のサイバーセキュリティ体制を強化します。
サイバーセキュリティを取り巻く状況は常に変化しており、インサイダー脅威検出プログラム (およびその他のサイバーセキュリティ防御) の継続的な改善と適応が不可欠です。新しいテクノロジーと手法を常に把握することで、セキュリティチームはサイバーセキュリティの実践を微調整し、脅威に効果的に対抗することができます。
テクノロジーの世界は猛スピードで進化しており、その勢いは当分衰える気配がありません。環境の変化に伴い、インサイダー脅威の起こり方も変化し、それらに対処すべき方法も変化します。この分野に短期的に影響を与えるテクノロジーには、以下のものがあります。
AI と機械学習 (ML) テクノロジーは、膨大なデータの分析を自動化することで、サイバーセキュリティの脅威検出を変革しています。ML を活用したソリューションは、インサイダー脅威を示すわずかな振る舞いの変化を迅速に認識できる能力が高まり、インサイダー脅威のアクティビティをより容易に検出できるようになりました。振る舞い分析に ML アルゴリズムを活用することで、自動化された脅威検出と予測分析を強化できます。向上したパターン認識機能で適応型対応システムをサポートし、潜在的な脅威に対するレジリエンスが高まります。
ゼロトラストモデルは、インサイダー脅威を軽減する効果的な手段として注目を集めています。ゼロトラストネットワークは、すべてのユーザーと接続を敵対的なものとして扱います。アカウントやアクセス場所に基づいてアクセス権やデータ権限が付与されることはありません。このアクセス権の制限により、悪意のある内部関係者や誤りを犯した人物による被害を軽減できます。ゼロトラストの詳細については、「ゼロトラスト解説」をご参照ください。
人間の行動やフィッシングなどのソーシャルエンジニアリング攻撃に用いられる心理的戦術を理解することは、被害軽減においてより大きな役割を果たすでしょう。攻撃者は、信頼関係を作り出そうとしたり、親密性を強調しようとしたり、コンプライアンスへのバイアスを悪用したりするなど、非常に巧緻になっています。ヒューマンファクターは、インサイダー脅威検出戦略においてますます重要な要素として認識されており、人々の心理と行動をより深く理解することが求められています。
インサイダー脅威は、現代の技術ベースの組織にとって複雑で進化するリスクをもたらします。ネットワーク異常監視、ユーザー行動分析、データ損失防止、セキュリティ意識向上トレーニングなど、技術的および非技術的な対策を組み合わせることで、様々なインサイダー脅威を効果的に検出し、対処することができます。プロアクティブな監視や継続的な改善といったベストプラクティスの導入は、このダイナミックなリスクに先手を打つために不可欠です。インサイダー脅威に対処するための重要なポイントは次のとおりです。
どのような組織も、最新のトレンドを常に把握して堅牢なインサイダー脅威検出プログラムを導入するといった断固たる行動をとる必要があります。脅威の状況が変化する中で、インサイダー脅威に対する資産保護を強化するには、綿密かつ情報に基づいたアプローチが不可欠です。内部関係者によるインシデントが問題となる前に、以下の対策を講じてください。
インサイダー脅威の検出は一度限りの活動ではなく、継続的な見直しと適応が必要なことを忘れないでください。 今から始めましょう。
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